装身具>筥迫(はこせこ)
「筥迫(はこせこ)とは、花嫁の打掛や本振袖、七五三・女児晴れ着の胸元に入れる「小物入れのような物」のことです。
現在では、七五三や花嫁さんの衣装の装飾品として用いられ、実用することはほとんど無いと思いますが、前身は鏡や懐紙を入れた「紙入れ」だそうです。
ビラ簪(びらかんざし)というびらびら付きのかんざしを、飾り房のついた「簪挿し」に入れて取り付けますが、装いによっては簪挿しだけ使うこともあります。
上の写真は、七五三・女児・3歳と7歳用の筥迫です。
筥迫について
筥迫の前身は、鼻紙袋(はながみぶくろ)=紙入れ(かみいれ)であると言われています。
紙入れは、男女ともに使われていた懐中仕様の小物入れです。 時代とともに素材や用途(中に入れるもの)が変化しました。
江戸時代中期(延宝年間)以前は、革・木綿・絹が使われていたようで、もともとの紙入れは「薬・楊枝・鼻紙・金銭」などを入れたポーチのようなモノであったようです。 武士の甲冑の左腹あたりに取り付けられているのが、昔の資料(絵など)に残されています。
江戸時代後期には、緞子(どんす)や更紗といった美しい裂(布)が使用されるようになり、鼻紙入れ(紙入れ)は、小物入れ・財布のようなものから、懐紙と鏡を入れる化粧ポーチのような女性用のものが出現したようです。
当時の錦絵に、美しい「紙入れ」に鎖をぶら下げた鏡を挟んで、帯の間に仕舞い込み、鎖をチャラチャラと帯から垂らしてアクセサリーのようにしているのが描かれているそうです。 これが、武家の女性の間で進化したものが、筥迫であると言われています。
大奥の御殿女中達は、美しい裂に刺繍や押絵を施して、競って筥迫を手作りしたのだとか。 これは「お細工物」と呼ばれて、開くとひな壇や屋形船に変化するような精巧なものなど、大変な趣向を凝らしたものがあったそうです。
筥迫には、鏡・懐紙の他、櫛やお守りを入れたりもしたそうです。
筥迫を使うシーン
現在で筥迫を使うのは、主に、花嫁衣装(白無垢・色打掛・本振袖)と七五三(7歳、3歳)の晴れ着です。
婚礼の筥迫
花嫁さんの白無垢・色打掛や、本振袖には、筥迫・懐剣・末広・抱え帯をします。(その他、帯締め・帯揚げ)
胴締め・簪挿し・匂い袋がない「紙入れ」タイプの筥迫を使うことも多いようです。
七五三の筥迫
七五三の晴れ着には、筥迫・末広・しごきをします。(その他、帯締め・帯揚げ)
七五三・3歳の場合、被布ではなくて帯を付ける場合には、7歳と同じように筥迫や末広を飾ります。 3歳用の小さい筥迫を使ってください。
振袖の筥迫
成人式の振袖や十三参りなどの晴れ着に筥迫を入れても構いません。
友人の結婚披露宴で振袖を着る場合など「ゲストとしてお呼ばれの席に、筥迫を入れたらいけないという決まりはない」ようなのですが、くれぐれも『花嫁とはり合わないように!』と注意が必要とのこと。 なるほど確かに。 「披露宴でゲストが白いドレスを着るのはタブー」というのと同じ理屈ですね。
下手をすると悪目立ちしてしまう可能性も無きにしもあらずなので、振袖に筥迫を入れたい場合は、お正月の初詣やご自身のお祝いの場面が良いような気がします。 披露宴のゲストの場合でも、会場内では外しておいて、行き帰りの道中だったら構わないとは思いますが。
このあたり、とても詳しく書かれているサイトさんを発見しました。 ぜひご覧ください。
既婚者・普段着物の筥迫
フォーマルなシーンでの留袖や色留袖、訪問着や付下げに、筥迫を挿しておられる方を、これまで見たことがありません。
なんとなく「筥迫=未婚者の装身具」というイメージがあったのですが、上に掲載させていただいた「筥迫は続くよどこまでも!」さんのサイトを拝見していて、年配者でも気軽に使える「実用筥迫」なるものがあることを知りました。 画像は飛び先でご覧ください。
素敵ですね。 ワタシも作ってみたくなりました。
筥迫の部位・名称
筥迫の部位・名称です。
上の筥迫は、胴締めを外して本体の蓋を開けると、真ん中に鏡がはめ込まれておりますが。
他にも2つほど開いてみましたら、ポケットが真ん中だったり、下蓋についていたり、中はそれぞれ違っていました。
側面の千鳥掛けは、どれも同じ感じです。 懐紙入れには、厚紙みたいなものが入っていますが、白い発泡スチロールみたいなものが入っているものも見たことがあります。
ちなみに、刺繍筥迫の裏面は↓こんな感じです。
上の写真で、匂い袋の上に赤い玉が付いていますが、これを「緒締め(おじめ)」と言うそうで、胴締めを締める際のストッパーであるそうです。 ってことは、この玉は、巾着の方ではなくて、胴締め(本体)の側に持って行くのが正解ってことですね。
筥迫のびら簪
筥迫のびら簪は、かんざし挿しに入れて、紙入れの厚みに乗せます。
時々、かんざし挿しのポケット部分(挿し込み口)が糊だか接着剤だかで貼りついていて、上手く入らない時があるのでご注意ください。(無理に入れようとして、簪さしが破れたのを見たことがあります。)
お嫁さんなら問題ないと思いますが、七五三の3歳さんや7歳さんは、この簪挿しをビラ簪ごとそっくり落としてきたりいたしますので、こちらもご注意くださいね。
さらに言えば、ビラ簪のビラビラ(鎖の歩揺)を、1本・2本、引きちぎって無くしてきたりもいたします。(ビラビラが足りなくなってる・長さが短くなってるなど)
ワタシが勤めていた写真館では、ビラ簪を挿さない場合は、簪挿しを伏せて乗せていました。 飾り房が奥に行ってしまいますが、こっちの方が見た目が良いので。
「ビラ簪は、買ったらいくらくらいするのかな?」と思ってamazonで調べてみたら、なんと、最安値は300円也! お安いですねー(200.06.05現在の価格です)
amazonでビラカンを探していて気付いたのですが、「あれ?こういう挿し方もするの?」という使い方を見つけました。
「びら簪」のページでご紹介しますね。
※関連記事:懐剣(かいけん)でも筥迫についてふれています。
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